Dejima Auto Tuning blog

古い逆輸入車をいじっています。コテコテすぎてクルマ関連業者さんにゆだねることができず、道具も使うスキルも充実してきました。2015年にサーキットでクラッシュしてからまだ補修ちゅう(中断している状態)作業するガレージと自宅が離れており、自宅を離れることができない状況になり、インドアでできるクルマの内装→ミシンや革漉き機、という流れです。

工業用ミシンと革漉き機はいじって楽しい、革でなにかを制作しなくても(2)革漉き機

ジャンク革漉き機の続きです。

 

構造を勉強、全バラ組みができる自信ができたなら数千円のを買ってレストアするのでイケると思います。稼働保証している中古漉き機の価格は高すぎるように感じますが、この記事の主題である「考える前に手ぇうごかす人たち」が買った場合の事後サポート対応料が含まれているのかなあと思います。質問攻勢、うっかり事故破損対応に付き合うと大変ですから。相場が高いのはそういう人たちが多いからという説明も可能です。

  • どうみてもジャンクだけど手当てすれば使える

当方はFortunaジャンク2機をどちらも3000円ヤフオクで。分解に必要な工具で特別用意したのはクルマ方面で出番がないピンレンチだけでした。当方日産のMTは分解したことあるが、オートバイのクランクケースの殻割はしたことがない程度のスキルです。主軸ベアリングや曲がり等は問題なく、他のベアリングには規格品が使われており、海中に何日も漬かっていたとかでない限り再生不能に陥らないと思います。実際うちの片方は出品画像でひっくり返された状態で深いところに水(雨?)が溜まっていました。使えるようになる機械には見えないと思いますが、錆は浅かったし、給脂部分はそれにより保護されていました。機械いじりする人なら部品点数も少ないのわかりますよね?

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水没


このFortunaの主軸周辺部品は他社がコピーしていないので買えませんが、そのぶん丈夫で2機とも不具合なし。他メーカーのジャンクでもし主軸曲がりがあったらaliexpress等で主軸部品探せるんじゃないかと思います。致命的に割れていた部品があり、接着補修で保たなければ旋盤で削って作るということで。

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ベアリングホルダー割れ接着修理

送りロールのブランコは折れて先端は消失していました。

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左のシャフトは切れて曲がっていて炭素鋼なのは明白だけど、曲げて普通に溶接で継いで研削した。加工した位置でなく先端に力がかかるので大丈夫。

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ニッケル溶加棒で溶接

失われていた部分はちょっと考えて鋳鉄でなくスチールで作りました。作業している場所に漉き機がなく、採寸と位置関係を頭にいれただけテキトーに作ってるから、再度切って溶接するハメになるかもなので。溶接してすぐにとがったハンマーで叩いて応力均して電気炉に入れ、手で触れる温度まで1時間かけて徐冷。鋳鉄の溶接ならではの手間。このあと何度か試したけど徐冷しなくても平気でした。棒状で小さいからかと。

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電気炉

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ビード削ってフックがかかるネジ造作した

ニッケル溶接棒のビードは削るときに火花が飛ばず(炭素がいない)、溶接うまくいった。補充したツマミ部の外径が大きすぎる以外は収まりも良好でした。

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革漉き機につけた

このブランコの補修に5時間かかりました。1万円くらいで純正パーツとして売ってればなあ……

  • メーカーによる機構・寸法の違いは結構あります

1機めはブランコが欠品していたので、中華部品をポン付けするときれいな漉きができない罠に陥りました。何か月か経ってから「これは軸位置が正しくない」と気づき、合わせる加工を数回にわたり行い、最近上記で補修したFortuna純正のブランコを入手し、自分で探り加工した中華部品の樽軸設置位置がドンピシャであったことが確認できました。



革漉き機のウレタンビア樽のラウンド形状修正と樽位置の工学的重要性

最終的には、アームを切って角度を変えて再溶接しました。そのままだとFortunaに使うのは不可能というのは間違いないです。

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中華ブランコを加工

 

  • 模倣から入り、理解を深めないまま製造しているメーカーはまともな操作マニュアルを作成できない

てなふうに工学的に観察しつつ不足パーツを補充、必要であれば加工して組めばできあがりますが、むしろ漉き機は使い方が問題で「考える前に手ぇうごかす人たち」は調整もテキトー、なかなかうまく漉くことができません。そうなる理由のひとつが、メーカーが自社で設計せずにどこぞのを真似して製造を始めて以来、機械の設計がなぜそうなっているのかはスルーしたまま50-60年作り続けており、機械としての完成度が低いのに操作マニュアルが雑だからです。下の動画のバネの調整のあんばいはFortuna以外のメーカーの説明書には書かれていません。イタリアの機械についてはマニュアルがあっても読めないので知りませんけど。


Skiving machine, how to adjust feed roller spring preload 革漉き機ビア樽前後傾きバネの使い方

中華Happyブランドの砥石はそのラベルが薄いステッカーですが、砥石は圧縮代があるもので挟まないとキチンと取付できないのは常識、みてくれだけ真似してる。Fortunaのラベルは厚手のちゃんとしたものです。また、Happy砥石の赤や青は砥粒の色でなく、結合剤に色を混ぜているだけ。でも値段なりに研げますが。


Fortuna skiver Happy grinding wheel bedding with gasket paper 革漉き機の安い砥石の活用法

さらに漉きカスがひっかかる送りロール軸受けの先端形状。Fortunaのはずいぶん前に先端が軸で終わる短いものに改良されています。真似したメーカーもせめて先端の角を落とせよ、半世紀も製造してんなら、って思うのは酷でしょうか。


Fortuna skiving machine with copy parts gets caught scrap 漉き機の漉きカス詰まり解消法1

  •  屑排出盤は音もミュートするが、ビビりを止めるためについている

丸刃の中にある円板は、消音と漉革カスが溜まらないためのもので、ないまま漉いたり刃を研ぐと共鳴してうるさいのは知ってると思いますが、無しで実験してみると、研ぎに時間を要するし、キレイに研げません。旋盤等の切削でビビっている(=振動)状態と同じです。


SKIVING MACHINE POSITIONING OF SILENCER DISC 革漉き機の消音盤の取り付け位置

このほかにも落とし穴がいろいろあるんですが、この記事はあとひとつで最後。「 主軸のブレ」と呼ばれるものには、軸の曲がりと、緩みがあります。曲がりが限度を超えて大きいと致命的ですが、緩んでいる場合は軸が踊り、刃を研ぐと逃げてうまいこと研げないし漉けません。緩んでいるからには締めて調整すればいいわけですが、「経験値の高いミシン屋」の受け持ち範囲とされています。裏をよう観察して「あ、そうか!」とひらめく人ならかんたんにできるはずです。

 

以上のような機械の特長を把握できるならジャンク起こし自体はさほど困難な作業ではないと思います。「いや、そんなんなら新品を買うし」という場合でも知っておいたほうがいいことばかり、知らないと革に穴開けたり主治医たるミシン屋さんに何度も調整を依頼することになると思います。

他のものだとギターやバイオリンに近いかも。最初からとりあえず音は出る、そこそこ弾けるようになって調律が自分でできない人は居ないですよね。フレットが摩耗してたりネック曲がったり、ピックアップ高さなどの不具合に気づいて自分でメンテできるか、楽器屋に持っていってやってもらうかはいろいろ。漉き機は重たいので来てもらうことになりますが。